研究

「福祉の世界はこんなにも深く,難しく,おもしろい」(佐橋克彦)

大学は定期試験期間です.学生たちは試験勉強に奮闘しています.
私の担当科目である「社会福祉概説Ⅰ」は昨日に試験を終えました.
採点していましたら,解答用紙の余白にタイトルのフレーズが書かれていました.この科目は1年生の導入科目ですが,社会福祉学の基礎を学ぶ内容です.しかし,「社会福祉学の基礎」といっても,用語を暗記するというようなことではありません.それは学生自身が社会福祉の視点を身につける,ということにほかなりません.
「深さ」とは人間がそもそも持っている利他/利己心のせめぎあいの中で,人間の存在を「科学的に把握し,ひとりひとりが異なりつつも,かけがえのない存在であること」を考える必要性を物語っているように思われます.また「難しさ」は,ひとりとして同じ人間がいない「社会」の中で,社会的正義の観点から不利な立場・弱い立場に立たされている人の生活をどのように保障し,支えることの大切さを述べたように思います.そのうえで,この学生は社会福祉学を「おもしろい」と述べています.
わたしは講義で答えを出す,ということは意識的にしていません.むしろ学生に問いかけながら,私自身も考えたことを伝え返しています.
もちろん,私自身の「専門」もありますが,他の学問同様,「社会福祉学」も決して完成された学問ではなく,常に文化・社会・経済学的なコンテキストの中で問い直されています.そこに「社会福祉学」のおもしろさを感じます.
余白に書かれていた何気ないフレーズでしたが,私の心には深く響きました.そしてこのような考えを持つに至った学生を育てられたことに何とも言えないうれしさを感じました.
このような学生を今後も育てていくためには私にもまだまだ勉強が必要です.大学の醍醐味は「学生と教員がともに学ぶ」点にあり,これがそれまでの教育と異なる点でしょう.
いわゆる「専門」の紹介はあえてしませんでしたが,大学では教員の研究と教育は不可分の関係にあります.学生の皆さんに少しでも「おもしろさ」を感じてもらえるように日々過ごしています.
完成された学問などありません.学生の皆さんや同僚とともに「深さ」を見つめ,「難しさ」に頭を悩ませ,「おもしろさ」を発見したいと考えています.

次回は田中耕一郎先生です.更新は8月中旬の予定です.

ゼミ選択説明会の一コマ
PAGE TOP