「障害学」の紹介(田中 耕一郎)

障害学(disability studies)は1980年代に英米において立ち上げられた新しい学問分野です。日本でも2003年に障害学会が設立され、これまで「障害」をめぐる多くの研究が展開·蓄積されるようになり、「障害」に関する知の深化·発展がもたらされつつあります。
日本において、この学会設立の一つの重要な契機となったのは、1999年に発刊された『障害学への招待』(明石書店)という書籍ですが、この書の中で、編著者の一人である長瀬修は障害学を次のように定義しています。
障害学(disability studies)とは、障害を分析の切り口として確立する学問、思想、知の運動である。障害学にとって重要なことは、社会が障害者に対して設けている障壁、そしてこれまで否定的に受け止められがちだった「障害の経験」の肯定的側面に目を向けることである。また、これまでの非障害者によって語られてきた歴史をもう一度見直すことである。(石川准·長瀬修編著(1999)『障害学への招待 : 社会、文化、ディスアビリティ』明石書店、p.11)。
この障害学において、研究者たちは、「障害」を医学的·個人的視点からではなく、社会的·政治的·文化的·歴史的視点から捉え直し、と同時に、社会·政治·文化·歴史を「障害」の視点から捉え直す作業に取り組んできました。
今年(2024年)の3月に、日本の障害学会設立20周年を記念して、『障害学の展開 : 理論・経験・政治』(明石書店)が刊行されました。本書は障害学会メンバー25名(うち1名は故立岩真也元障害学会会長)によって、「障害学の過去を振り返り未来への展望を描く論集」(出版事業WGメンバー・山下幸子氏の言葉)として編まれたものです。
まだ歴史の浅い障害学ですが、「障害」を鍵概念として、人と社会との関係を深く広く問い返してゆく、可能性に満ちた学問分野ですので、皆さんにも興味を持っていただければ有難く思います。