研究

北海道における精神保健ソーシャルワーク(永井順子)

 北海道は、精神障害のある人の希望に即した地域生活を実現するような支援体制を構築する精神保健ソーシャルワークに関し、優れた実践がいくつもある地域です。浦河町にある「浦河べてるの家」発の「当事者研究」という精神障害のある人自身とともにつくる支援アプローチは、日本国内のみならず国際的にも知られるようになっています。他にも帯広市を中心とする十勝圏域は、精神障害のある人が精神科病院に長期入院していることが当然視されていた1980年代前半から、精神科病院からの退院、地域生活への移行を進めてきた結果、精神科病院における平均在院日数が全国平均の3分の1程度と短く、入院ではなく地域に軸足をおいた生活をできる体制を実現しています。
 私は近年、北海道における精神保健ソーシャルワークの歴史について研究を続けており、浦河、帯広以外にも北海道の各地で、優れた精神保健ソーシャルワーク実践が行われてきたことを確認してきました。その成果について、毎年、学会で発表を行ってきたのですが、今年は初めて国際学会(Double Tenth -Joint Conference of IASTAM and ASHM)で発表してきました。開催地は台湾で、アジアの伝統医学や医学史を扱う学会でしたが、日本の精神医学史や北海道の実践に関心を持ってくださった参加者もおり、「日本」だけではなく「アジア」という視点で見ても、北海道における精神保健ソーシャルワークの独自性は研究の価値があると再認識することができました。
 同時に、北海道における精神保健ソーシャルワークの歴史を絶やさず、次の世代へと引き続いでいくことも、大学が担うべき役割の一つとして大切にしたいと改めて思います。

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