社会福祉専門ゼミナールⅠ/福祉臨床専門演習の一コマ(栗山隆)

人間にとって必要不可欠な住環境や住まうことの意味、土や壁、建物等がもたらす教育・福祉的な意味合い、地域との関係性、左官という職業が意味する歴史や文化性を広く学ぶ機会として2026年5月22日(金)「京都ぬりかべ屋三谷左官店代表・三谷 涼」さんを「社会福祉専門ゼミナールⅠ/福祉臨床専門演習」に講師としてお招きした。
京都ぬりかべ屋・三谷左官店の仕事については、伝統を重んじながらも職人の想いを大切にするのが三谷流であり、技術があるのは当たり前のこと。その上で、三谷氏の想いが込められなければ仕事を引き受ける意味がないと考えている。伝統的な塗り壁であっても、個性的なデザイン壁やテーブルであっても、全ての仕事にその意識を持ち、作品を納められるよう努力している。三谷氏が愛する土の力と、その力を最大限に引き出す左官の技術を広く伝え、多くの方にその魅力を伝えることを使命と思い左官以外の活動にも積極的に取り組んでいる。「土の魅力を伝える」こと、それが自身の使命との思いがある。
教育の分野においては、講師として、2024.3.4京都府長岡京市立長岡第十小学校にて、キャリア教育「働くことの意義や願い、その生き方について」を6年生対象に実施したり、2024.2.29京都府長岡京市立長岡第五小学校にて、キャリア学習、文化と古典に関する体験活動「伝統〜古いものを受け継ぐこととは」を4年生対象に実施している。また、立命館中学校高等学校学園祭2022・23のシンボルオブジェを監修・技術指導を行ったりと教育にも携わっている。また、福祉活動として2022.3.29乙訓障害者事業協会「乙訓もも」において基礎的就職支援事業の講師を務めるなど幅広く活動を展開している。
一方、現在日本で広く親しまれている泥団子は、①左官の泥団子、②教育の泥団子、③アートの泥団子という3つの形で分けることができ、三谷左官店としては「左官の泥団子」を軸に全ての領域で活動している。左官技術が詰まった「生きるどろ団子」を作る体験は、磨けば輝きを取り戻し、何年、何十年でも光り続けるどろ団子を作ることは、根気のいる磨きの作業であり、まるで瞑想であるともいえる。土に触れながら無心になる時間は、現代における最高の贅沢であり、その時々で、自身が何色を選ぶのか。その心の動きや感性も大切な体験の一つとなっている。
また、三谷氏は、子どもの「遊び」を通した成長・発達へのまなざしにとって、泥団子づくりは、一見すると単純な遊びのようでありながら、集中・試行錯誤・感覚の調整・自己肯定感など、子どもの内側に静かに作用する要素を多く含んでいるとパワーポイントの資料を基に説明された。説明後、実際の光る泥団子や左官の道具に触れた学生たちの主な感想は以下のとおりである。
「技術職が地域社会の中でどのように機能し、人々の心を動かしていくのかを学ぶ貴重な機会となった。左官という伝統技術が、物質的な壁を作るだけでなく、人と人との関係という心の壁をも取り払っていくという視点は、これからの私の学びにおいても非常に大きなヒントとなった。」「現代の日常とは少しかけ離れたものなのかと思っていましたが、東京ディズニーランドで左官技術がふんだんに使われているというお話を聞いたとき、一気に身近なもののように感じました。いつかディズニーランドに行ったときは、左官を感じながら楽しみたいと思います。」「特に光る泥団子の話が面白くて、修行時代に1万個以上作ったというのも驚きでしたが、それが単なる練習ではなく、土の性質を指先で感じ取るための訓練だったというのが、職人の世界の体で覚えるという感覚を具体的に教えてくれた気がしました。」「泥団子作りを通して、人と人とのつながりが生まれるというお話もとても心に残っています。泥団子を一緒に作る過程で会話し、お互いのことをより深く知るきっかけになるだけでなく、完成した作品にはその人の性格や個性が表れるということを知り、とても興味深いと感じました。ただ作品を作るだけではなく、人との関わりやコミュニケーションを深める役割もあるのだと感じました。」「泥だんごは親しみやすいのに、そこには土の知識、手仕事の精度、職人の美意識が詰まっている。だからこそ、三谷さんの泥だんごはかわいい工作では終わらず、土と左官の魅力を伝える小さな芸術作品として人を惹きつけるのだと思います。」
北海道においは自然素材をいかした健康で文化的な土や壁、左官、そして住まうことの意味を理解してもらう機会は限られる。そのためにも福祉施設や学校等で講演やワークショップを喜んで引き受けていきたいとの意向を伺った。三谷氏自身は、北海道には過去1度も来道した事が無かったが、以前から北海道の土や建築物には興味があり、機会があれば北海道を訪れ、土を調査し北海道の風土に適した土や壁、家等について理解したかったとのこと、また、可能であれば道内の農業関係者や、土と対峙している専門家たちとの交流もしてみたいとのことであった。
今回のゼミで三谷氏の話と学生たちとの意見交換を行う中で、これらの話が学生の新たな気づきや発見の機会となったこと。また、単なる遊びの領域を超えて、人間にとって必要不可欠な住環境や住まうことの意味、土や壁、建物等がもたらす福祉的な意味合いや地域との関係性等示唆される部分が多かった。また、左官という職業が意味する歴史や文化性をゼミの学生以外にも広く知ってもらう機会を設ける必要性もあわせて感じたゼミであった。
