コラム

DepartmenofSocialWork

COLUMN

釧路と小説と、省察
専任講師 大友 秀治

2016.09.16

 昨年12月の話になってしまいますが、大阪府立大の山野則子先生や院生とともに釧路を訪問する機会がありました。半日のフリー時間に、湿原カヌーツアーにチャレンジ。冬の湿原は見通しがよく、静かな森に息づく鹿や鷲の躍動に、野生のたくましさを感じることができました。
 カヌーの後、展望台から眺めた湿原の広大さには、圧巻の一言。ちょうど、山崎豊子氏の社会派小説『沈まぬ太陽』を読んでいた頃でしたので、アフリカの大地で苦悩する主人公・恩地元も、このような人知を超えた大自然に癒されたのでは、とシンクロする思いでした。
 『沈まぬ太陽』では、極限のなかで人間性が崩壊に傾いていくエピソードと、逆境を糧に人間性を回復していくエピソードが綴られていると私は思います。小さなエゴ(こだわり)を棄てられたときに、純粋で大きな自分が自ずと現れてくる、というのはインドの深淵な思想の一つです。「自分が、自分が」というつまらないプライドを省察するためには、圧倒的な自然のなかに身を投げ出すことも時に大切ではないかと、改めて学ぶ機会になりました。
 このような豊かな大自然の懐で仕事ができることに深く感謝し、これまで頂いた人とのつながりを、さらに紡いでいけるよう努めてまいります。

一覧へ戻る