コラム

DepartmenofSocialWork

COLUMN

映画と人
准教授 大友 秀治

2021.09.30

 高校生の頃、私は受験勉強に疲弊したとき、現実逃避のように洋画ばかり観ていた時期がありました。当時、DVDはまだなく、レンタルビデオ店でビデオテープを借りるのが普通でした。『バックトゥザフューチャー』や『バットマン』、『バックドラフト』、『メジャーリーグ』などの、典型的なハリウッド映画です。ストーリーよりも演出やリズム感に魅了されていたと思います。それでも、ふさぎ込んだ気持ちを解放してくれる映画の素晴らしさに感動し、映画製作の仕事に就いてみたいという淡い夢を持つこともありました。
 年齢を重ねるにつれ、ストーリー性を重視するようになっていきました。『ダンス・ウィズ・ウルブス』は、アメリカの南北戦争時代、侵略側である一人の白人が、インディアンの人情と文化に惹かれ、「狼と踊る男」と名付けられ、インディアン共同体に承認される物語です。『恋愛小説家』は、強迫性障害で毒舌の小説家が、新しい恋を通して自分を変える努力を重ねるラブ・コメディです。『ロード・オブ・ザ・リングス』は、人間の欲望をかき乱す魔性の指輪を、「小人」である「ホビット族」の若者が、自身と格闘しながら指輪を葬る冒険譚です。
 また、『男はつらいよ』などの邦画にも関心を持つようになりました。『漂流』は、江戸時代に南方の島に漂流した主人公が、飢餓と孤独に打克って帰還を果たす実話に基づいた物語です。『さぶ』は、同じく江戸時代、えん罪のために人生を投げ捨ててしまった職人を、同僚の「さぶ」を含む周囲の人々が支え続けることから、人生が拓かれていく物語です。
 いずれも、狭い自己から広がりのある自己へ変容するテーマが共通しているかもしれません。自己努力を支える人と環境がよく描かれていると思います。器の狭い自分からどう抜け出すかは、私自身の課題でもあります。映画を観ただけで劇的に変わるはずもありませんが。日々の小さな行動と、周囲との関係性を豊かにすることでしか自分を変えることはできない。そう分かりつつも、心に潤いを与えてくれる映画という存在にも支えられています。

映画の原作である『ロード・オブ・ザ・リングス』の英語版(J.R.R.トールキン著)。英語の勉強にもと購入しましたが、挫折ました!

一覧へ戻る