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【心コミ・リレーエッセイ 第9回:「父親の書斎」(阪井宏/教授 専門:現代社会学、メディア論)】

2020/07/10

ゼミの3年生が毎週、スマホで映像を撮り、編集している。テーマは「コロナ」。自粛が続く日常を、3分間ほどの小品にし、私に提出する。

学生たちの感性には、かなわない。切れ味がよい。味わいがある。ある学生の作品「遠隔授業」には、まいった。胸がいっぱいになった。

授業のたびに、彼はパソコンのある父親の書斎を使う。スマホは、室内を映す。書棚には山の写真集、無造作に置かれたヘルメットとピッケル、冬山で撮った昔の写真・・・。彼はこの時、父親が山に心底ほれ込んでいることを知る。

テロップには、胸の内の不安がにじむ。「いつか僕たち家族を置いて、父は山へ行ってしまうかもしれない」。山に魅せられた父親が、二度と戻らない日がくるのではないか。手ぶれが、揺れる心を表す。感傷的なバラードの曲がまたいい。「僕もコロナが落ち着いたら、山へ行ってみたい」。そんな字幕ののち、映像は終わる。

父と息子。夢と不安。一人で酒を飲みたくなった。