それは人間の尺度とは一致しない、したがってそれは非現実的なもの、やがて過ぎ去る悪夢だと考えられる。ところが、それは必ずしも過ぎ去らないし、悪夢から悪夢へ、人間の方が過ぎ去っていくことになり...、自分たちにとって、すべてはまだ可能であると考えていたわけであるが、つまりそれは起こりえないと見なすことであった。

　何の話だろう...？そう感じることでしょう。でもここにキーワードがあると－例えば「新型コロナ」のような－ああそうかと納得できます。途端に分かるようになります。

　この現象を心理学ではスキーマという概念で説明します。この理論を応用すると、伝わりやすい話とか分かりやすい文章などといった、コミュニケーションの基本を身につけることができます。これらは「心コミ力」を形成する重要な能力です。

　冒頭の文章、実はノーベル文学賞作品「ペスト」からの抜粋でした。高校時代に挫折したこの本を最近になって読み直してみたら、実に容易に理解することができました。半年の間に身についてしまった感染症に関するスキーマのおかげです。

　「ペスト」はアルジェリアが舞台となった架空のお話です。昨今の状況を鑑みると、彼の地への渡航は、歌詞の通り「地の果て」に行くよりも困難です。旅好きとしては、現地を訪れることが出来る日が戻ることを願うばかりです。