研究

地域小規模児童養護施設の住環境を考える(栗山 隆)イラスト矢崎一彦(CEBRA)作

前回は、児童養護施設の住環境について考えたことを報告しました。

今回は、さらに地域小規模児童養護施設について報告します。

地域小規模児童養護施設は、2000(平成12)年に創設された少人数の児童養護施設をいいます。児童養護施設に入所する子どものうち、本体施設から離れた場所で、その子どもたちが地域の一般住宅に職員の援助を受けて生活をしています。定員は6人です。

ここでは都市部住宅地における小規模児童養護施設の建築的可能性を考察しました。建築イメージをより具体的に検討するために、自立支援が必要な青年期の子ども(15歳から22歳)を対象に敷地を北海道札幌市と設定し、積雪量の多い環境での建築のあり方、そして施設の地域との関係性を考慮しつつ、彼らにとっての共同生活の場となる空間はどのような形式が求められるのかを考えてみました。

近年、厚生労働省が薦めている“児童養護施設の小規模化”に見られる施設建築は、家庭的養護の考えのもとで、“家庭的”というイメージを直接的に捉え過ぎるあまり、単に一般住宅を転用したり、その間取りをそのまま使用する事例が多く見られます。それぞれ個室があり、共用スペースとしてリビング、ダイニングが一部屋ずつあるという核家族をモデルとしている構成は、あくまで家族という生活スタイルが一定のレベルで共有されることが前提で成り立っているといえます。また、日本の各地域における特性を踏まえた視点は不十分です。

児童養護施設はそれぞれ異なるバックグランド、価値観を持つ子どもたちが共同で生活するという、一般家庭用住宅の形式では対応できない複雑性を孕んでおり、そのような状況に適応できる、“施設”としてふさわしい空間構成が建築的に表現されるべきではないかと考えました。

それは、しっかりと自分の居場所として個室が定義されているのはもとより、他の子どもや職員と一緒に時間を過ごせる共用スペースの充実が必須です。そして施設の姿も子どもにとって愛着のあるものとして存在し、知り合いを招いたり、また退所後に戻ってこれるような誇れるものであるべきです。自然の少ない都市環境、そして寒冷地の中でも、屋外空間から日の光や風を感じることができ、季節の移ろいなど自然の恩恵を受けられることも生活環境として重要です。

これらの事を建築的、空間的にどのように実現するのか、都市部住宅地における小規模児童養護施設の建築はどのようにあるべきなのか?そして多感な青年期の子どもたちが共同で生活し自立を支援するための空間はどのようなものであるべきか?を考察しました。

前回に続きデンマークの建築家、矢崎一彦氏と共に「札幌フクロウハウス‐都市部住宅地における小規模児童養護施設の建築的考察‐」をまとめ、児童福祉施設職員研修会等で報告しました。今回も矢崎氏の許可を得て、その内容の一部デザイン画像を掲載しています。

建築には、その形態、空間、質感を通して、施主、関係者の思い、そして設計者の考えなどの“施設のヴィジョン”を視覚化する力があり、それを明快に子どもたちそして地域の人々に伝えることができます。施設が社会につながるためにできることの一つの方法です。札幌フクロウハウスではそのような建築の社会的な意義を実現することを目指しています。現在、このアイディアを応用した地域小規模児童養護施設の建設計画を進めてくれている社会福祉法人があります。次回は、この報告が出来るかもしれません。

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