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【心コミ・リレーエッセイ 2021年度 第35回:「また、いつかどこかで」(後藤靖宏/教授 専門:認知心理学/音楽心理学)】

2022/03/23

 春は卒業や進学の季節です。大切な人とお別れをしたり、環境の変化を前に緊張したりしている人もいることでしょう。僕自身もつい最近、辛い別れを体験し大きな変化に戸惑っている最中です。そこで今回はこれまでと趣向を変えて、今まで書いてきたエッセイを振り返ります。

 

 この一連のリレーエッセイ、そもそもは学科のことを広く知ってもらうという目的のもと、自己紹介や担当授業を紹介しつつ自由に書きましょうということで2020年から連載が始まりました。

 ただ、「自由に」と言ってもダラダラと書くのは面白くありません。そこで、執筆にあたっては、自分自身にいくつかの条件を課すことにしました。

 まずは、単に授業の話を書くだけでは堅苦しいので、趣味の旅行に関連づけることにしました。そうして書いた初めてのエッセイがこれです。


「味による VR 体験」(2020/06/13)


 上のような条件を作ったのは良いものの、当時は新型コロナ流行の初期で、旅行などはまったく行けない状態になりいきなり出鼻をくじかれてしまいました。しょうがないので、好きな料理にかこつけて「旅行に行きたい」という話になりました。

 実はこのお話、初稿ではもっと長々と書いていたのですが、担当の片岡先生に「目安は400字です...」とやんわりとリジェクトされてしまったので、試行錯誤しながら文字数を減らしました。以降、新たに400文字ジャストで書くという制約を課すことにしました。


 つづく2回目は、コミュニケーションの基本となる「スキーマ」の話を書きました。大島先生が書かれた「心コミ力」の話に触発されたものでした。


「♪ここは地の果て アルジェリア」(2020/08/03)


 コロナ禍のさなか、家に籠もって「ペスト」をひたすら読んでいたのがこの時期でした。タイトルは「カスバの女」(藤圭子・他)からの引用です。

 ちなみに、3段落で書くという条件を加えたのはこのエッセイからでした。文章に限らず、他者に説明する際に「3」を意識するとよいというのは、心理学的に証明されている「心コミ力」の1つです。


 後期になり、音楽心理学の授業が始まりました。そのころに書いたのがコレです。


「音楽タイムマシン」(2020/10/28)


 筒美京平氏の楽曲は僕の世代にドンピシャで、以前から授業でたくさん使用していました。そこで2段落目にはこっそりと売り上げベスト5を入れておきました(スニーカーぶる~す(近藤真彦)、ブルー・ライト・ヨコハマ(いしだあゆみ)、また逢う日まで(尾崎紀世彦)、ロマンス(岩崎宏美)、魅せられて(ジュディ・オング))。気づいて連絡を下さった方、さすがです。


 年度が変わり、このエッセイも2年目に入りました。この回から、さらに各段落を3文で書くという制約も加えてみました。学科でこの年をSDGsの年と決めたことで、こんな話を思いつきました。


「Улаанбаатарで持続可能な開発について考えてみた。」(2021/07/14)


 ここにある通り、胆振東部地震が起きたころ僕はモンゴルを旅行中でした。空港の衛星放送で衝撃的な映像が流れるだけで詳細は分からず、不安に思いながらあわてて帰国したものの、新千歳空港が閉鎖されていて北海道には帰れませんでした。やむを得ず東京に滞在しながら食料や水、あるいはバッテリーなどを購入し、スーツケースに詰め込めるだけ詰め込んでようやく帰札したのでした。

 自宅も研究室もひどい乱れようで、一日がかりで片付けをしながらふと、モンゴルの人たちだったらこんな時どうするんだろうと考えて書いたエッセイでした。


 なかなか行かない場所への旅行というつながりで書いたのが次の話です。


「だから僕は音楽を辞めた聴けた」(2021/10/27)


 タイトルはヨルシカから。音楽心理学というと、音楽療法とか癒し音楽などを想像する人が多いのですが、そもそも「音楽を聞く」とはどのようなことなのかを理解しないと療法に音楽を利用することもできません。対面授業が可能だった時期ということもあり、授業の様子を絡めながら綴ってみたのがこのエッセイでした。

 グリーンランドは遠かったなぁと、今考えても思います。2度と訪れることは難しいでしょう。ですが音楽という共通言語のおかげで現地の人とコミュニケーションをとれたことは大切な想い出です。


 そして、最後のエッセイがこれでした。


「ギテガ・ニアメ・バマコ・マプト・バンギ・キガリ…」(2022/01/19)


 受験シーズン真っ盛りということで、勉強と記憶の話を書いてみました。記憶に語呂合わせが有効なのは経験的に良く知られていますが、その背景にあるのはこうしたココロの仕組みです。

 そういえば初めて北海道に来た時、北海道の地名は僕にとってほぼこんな感じに聞こえたなぁなど思い出していました。「花畔」(ばんなぐろ)や「望来」(もうらい)はもちろん、「発寒」も「野幌」も読めませんでした。20年以上前の話です。


 さて、これで僕のエッセイは全て終わりです。今回かなり長くなってしまいましたが、これまで全エッセイを400文字で書いてきたので、最後くらいお許しを。

 4月から僕は研修のために北海道を離れます。また、いつかどこかでお会いできることを楽しみにしています。


キーウ(キエフ)の独立広場。一日も早く平穏な日常が戻りますように(2012年7月後藤撮影)。